ARCSモデルを学ぼう
大人の学びを考えるQ&Aワークショップ&スカイツリーディナー
~ARCSモデルの生みの親“ジョン・M・ケラー先生と
ID研究の第一人者である鈴木克明先生を囲んで”~
いよいよ始まりました、ケラー先生と鈴木先生のゴールデンコンビのワークショップです。どんなワークショップになるのか楽しみです。
l オープニング by TDMコンサルティング株式会社 代表取締役 森田晃子
- 若き日のケラー先生と鈴木先生の写真はびっくり?ケラー先生が鈴木先生を踏んづけているよ。師弟関係というのは内外を問わずこういうものなのですね。
- TDMの社名は、IT、ID、IM、IPの中からIT、ID、IMを取り出して社名にしたという宣伝がありました。
- ワークショップの参加者は30名で、その内訳は製薬関連42%、医療関連28%、教育関連19%、メディア関連11%で構成されていました。医療関連が多いです。それだけ人材育成に一所懸命なのでしょうね。
- ワークショップのテーマは、「大人の学び:人は何故学ぼうと思うのでしょうか?」
- 最初に、「あなたの学習意欲度チェック調査(チェック表にて)」を実施し、参加者の学習意欲度をチェックしました。ここで、参加者の学習意欲に関連する、「注意度」「関連度」「自信度」「満足度」(ARCSの各項目)を用いて学習者分析を試みたようです。私の得点は8点/10点でした。私のグループ内の最高点は9点の方がおられました。
- ARCSモデルを教授側のツールとしてではなく、学習者用に使用し、学習者の学習意欲を高める作戦として用いる方法を試みたということです。これを用いると、学習者を学習するヒトへ導ける。これは、使える。そもそも、学習者が学ぼうと思わないと大人の学びは起こらないから。
l 最新の話題 by ケラー先生
- 動機づけは人生の様々な場面で必要である。環境と動機づけなどについても検討する必要がある。
- 意欲をそぐ障害物はいくつかある。興味が持てない、妨害となるもの、つまらないもの、時間が無いなど。また、エネルギー不足、スケジュールが厳しい、失敗が怖い(ストレスがかかるとパフォーマンスを発揮できない)や働き過ぎなど、学習者の「自信」の問題が存在する。学習意欲は、高すぎても低すぎても学習が進まない。
- 学習意欲が低い場合に学習が進まないことはよくある。加えて、学習意欲が高すぎる場合にも学習が進まないので注意が必要である。
- トピック:ARCSモデルが成立した歴史的経緯について
ケラー先生はIDを学習後、学習性無力感を研究した。そんな折に友人から、子供の動機づけの測定方法を教えてほしいと言われた。結果として、1つの評価のスケールを提示することはできなかった。5-6の要素が必要になった。その理由は、様々な心理学領域から様々な動機づけ関連の理論があったため、動機づけ理論を統合できるものが無かったからであった。ここに、研究分野として大きな空白があると考えた。そこで、当時の心理学理論のレビューを行い、カテゴライズした。その結果、ARCSの4つのカテゴリーに分けることができた。私の友人の問いがARCSを開発する引き金だった。
- ARCSモデルは、学習者の学習初期の意欲が高ければ学習の継続に問題が無いという前提に立っていた。しかし、学習者の初期の学習意欲が高くない場合には、学習が継続しないことが判明した。そこで、ARCSモデルに「意志(Volition)」が必要と考え、ARCS-Vモデルとなった。
- 学習意欲の原理として、学習意欲は次の5つの場合に促進される。
知識のギャップを感じたため好奇心が高まった場合
学ぶべき知識が自分のゴールと有意義に関連した場合
学習者自身が成功できると信じた場合
学習者が満足できる結果を予測あるいは経験した場合
学習者が意志を強める方略を採用した場合
- ARCS-Vをデザインする場合の10段階のプロセスについては、著書(Motivation Design for Learning
and Performance / 翻訳書 学習意欲をデザインする)を参考にしてください。IDとARCSモデルを統合していくと10のstepが考えられたということです。この10ステップに沿って学習意欲を高めるデザインにしてください。
l ケラー先生への質問タイム①(お話を伺って、疑問点を解消しよう)
Q:ARCSモデルには意欲に関する項目が存在していると考えるが、何故ARCSに意志(Volition)を追加したのか?
A:ARCSモデルにはモチベーション部分は含まれていた。しかし、動機を刺激することはできるがコントロールすることは困難である。学習者が動機をコントロールするためにVolitionを加えた。例えば、やりたい気持ちはあるがどうしたらよいか分からないという「やり方がわからない」という問題がある。Volitionという学習方略を加えることで、自分自身の学びをメタ認知するというものが加わるので、このような問題にも対処できるということである。実際の教育現場で学習者を分析した際に、参加者の学習への意志が高いのであればVolitionの手法を加える必要はない。
Q:ハンドアウト資料の「ARCS学習者分析」に示される学習意欲が高い場合と低い場合の各項目を、学習者の学習意欲のチェックリストとして活用することは可能か?
A:ここに示したものは学習意欲が高い場合と低い場合の一つの例を示したものであり、他にも要素は考えられる。この点を踏まえたうえで、学習者の学習意欲の確認のために活用してもらってもよい。また、インストラクターの意欲を確認するためにも用いることができる。
Q:学習意欲が高い場合の学習者へのアプローチはどうしたらよいのか?
A:学習者の注意(Attention)が高い場合は、学習への興味が深すぎたり、余計なもの(学習する場に色々なものが置いてある、または、アクセスできるような状況等)があり過ぎると、様々なものに興味を示し集中できない場合がある。そのような場合は、余計なものを取り除く必要がある。関連性が高すぎる場合は、ストレスがかかり過ぎて実力が出せないような場合がある。どうなるか心配になり過ぎ集中でずに実力を発揮できないような場合である。このような場合はストレスマネジメントという手法で鈍感化する必要がある。また、学習者の自信が高すぎる場合は、聞くべきことを聞かないということになる。知っていることは聞くが、知らないことは聞けないという状況である。この場合は、冒頭にクイズ等を実施して、学習者の自信レベルを下げてから学習を開始するという方法がある。
Q:対象となる学習者が様々な学習意欲の場合にはどのように教えるべきか?
A:インストラクターがここに参加しているメンバーの学習意欲が様々だということを学習者に言うだけで、学習者側が個々の学習意欲の違いを理解する。これによって、学習者間で相互に学習意欲の違いを理解することは重要。また、そうすることで、インストラクター自身も楽になります。
l ケラー先生への事前質問への回答(会開催前に提出された質問への回答)
Q:(天野氏)中学生向け語学用テキストを作成中であるが、ドリル形式の学習教材をARCSモデルを用いて学習意欲が高まる教材にしたいが、どのようにしたらよいのか?
A:言語の学習は学習者の期待が高すぎて、がっかりすることが多い(学習者自身にいつまでにどこまでできるかを予測させて、語学学習を実施してもらうと、予測地点に到達できない場合が多かったという報告がある)。長期間かかる学習には、途中の過程をモニターをしていくことが重要である。また、集中学習より分散学習の方が効果あるといわれている。関連性(Relevance)を高める方法として、同じ単語を様々な使い方(様々な文脈の中で使用する)を学べるような方法も良い。
Q:(荒木氏)若い人が年齢の高い人に教える際のコミュニケーション方法はどのようにしたらよいか?
A:インストラクターへの信頼感が重要である。インストラクターはこのような学習者への対応方法として次のようなアプローチが良い。
・冒頭に学習者に対してケースシナリオを出し、その対応方法を聞き、グループディスカッションさせながら、該当する学習者の提示したものの中で不足する部分を確認する。
・そして、該当する学習者の提示したものの中で良い点をテキストと照らして良いと示す。次に、テキストと照らし合わせて不足している部分を示すという方法。
・これにより、あくまでインストラクター自身が該当する学習者を否定しているのではなく、テキストという資料が不足を提示しているという捉え方をしてもらえるし、学習者のインストラクターへの信頼関係も構築しやすくなる。
Q:(藤田氏)看護学の領域でARCSモデルをどのように活用したらよいのでしょうか。特に臨床実習教育の際にどうしたらよいのでしょうか?
A:現場での学習の促進は学習者のモチベーションが大切である。学習者のモチベーションのチェック方法は、学習者自身にARCSモデルの各項目を自己評価させる、教員が学習者を観察して推測する、または、インタビューにて聞いてみるという方法を通して学習者個々のカルテを作成していく。個々のカルテに応じて現場教育を実施していけばよい。また、学習者に学習意欲を確認させる方法として、教材用に提示しているARCSモデルの評価表を個人の視点で捉えて活用してもらえばよい。
l 乾杯は鈴木先生、その後、歓談。
l 超スペシャルプレゼンテーション(ケラー先生の生い立ち?) by 鈴木先生
ケラー先生の子どもの時の写真?かわいい!!
戦闘機と映っている写真?戦闘機も操縦するの?いや、整備するみたいです!!
シシリアさん(奥様)の支援で、本を出版されたようです?
その後も、おいしいワインとフレンチで心ゆくまで、本日のワークショップをテーマにしたリフレクションが続きました。
解散!!
以上
(文責:早川勝夫)
(尚、本レポートは、聞き取りにくい部分を報告者の勘で追記されたものである。)
1)熊本大学 ランチョンセミナーの資料
http://cvs.ield.kumamoto-u.ac.jp/wpk/wp-content/uploads/2010/07/luncheon_ppt_57.pdf
2)鈴木先生の学会発表資料
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/jaems2010_suzuki.pdf
3)eラーニングカンファレンスの資料
http://203.183.1.152/Conference_open/A_b00728eLW_ARCS.pdf
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